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金子千尋のネクストステージはアメリカ。「頭脳派ピッチャー」が目指すコーチ像

「僕もシアトルへ行かせて下さい。行きます」

これから5年前の2018年オフ、金子千尋は迷うことなく返答してくれた。

アメリカ大リーグで投手を中心に主流になりつつあったシアトルにあるドライブラインベースボールでのトレーニングに筆者が一緒に行かないかと声を掛けての返答だった。

ケビン山崎の故郷であるシアトルの盟友がドライブラインベースボール代表を務めるカイル・ボディ。多くのメジャーリーガーを再生させ、球速を劇的にアップさせることに成功したカイル氏のもとに、まさに復活をかけて金子とケビン山崎が向かうことになる。

– 2018年 シアトル ドライブライン –

そして、4勝に終わった2018年シーズンから翌年は8勝を挙げ、30代後半に向かう中、復活の兆しを見せることになる。

これがトータル・ワークアウトと金子千尋の出会いだった。

最多勝を二回、最優秀防御率、沢村賞も受賞した日本球界が誇る右腕は最後の最後までもがいた。もがき続けた。もう一度、身体の動きを見つめ直し、レッドコードなど神経系を鍛える新たなトレーニングを取り入れ、投げ続けることにこだわった。

– 2019年 トータル・ワークアウトでのトレーニング風景 –

「2023年も投げるつもりでいました。投げると決めていました。マウンドに上がるつもりでずっと調整し、トレーニングを続けた去年の秋、そして冬でした」

金子千尋は40歳になる2023年も現役でプレーできる身体の状態にあった。気持ちも充実していた。だからこそ、北海道日本ハムファイターズからコーチ打診を内々で受けていたが、NPBからの現役としてのオファーを待っていた。

「様々な球種を使いながら、バッターを惑わし、最後にストレートで抑える。そのピッチングスタイルを掴みつつありました。新たなスタイルで一年間を戦える手ごたえを感じていたので。まだ投げらると。待ち続けましたが最終的にはNPBからのオファーはありませんでした」

ファイターズは金子の指導力、思考力、人間性を高く評価し、コーチ打診の返答を待っていた。そして、彼は現役ドラフトが終わった一週間後にコーチ打診を引き受けさせてほしいと球団に返答する。

金子千尋の次なるキャリアのスタートはMLBテキサス・レンジャーズへのコーチ留学だった。

「アメリカに行ったからこそ、長く現役を続けることが出来たと思っています。ロサンゼルスでの自主トレ、シアトルのドライブラインで行ったトレーニングで得たものは非常に大きかったです。感覚的な部分とデータ的な部分、ここを上手く選手たちが理解し、プラスにしてもらえるようにコーチとして勉強していきたいと思っています」

現役時代から頭脳的なピッチングで他を圧倒してきた沢村賞投手、金子千尋。

その投球術と理論に憧れる若手は非常に多い。今年、中日ドラゴンズにドラフト1位で入団した沖縄大出身・仲地礼亜も金子のピッチングスタイルに心を打たれ、彼を参考にし、プロの世界に辿り着いた。

金子千尋であれば、アメリカのベースボールと日本の野球をまた新たな観点で繋ぎ合わせ、選手に浸透させることが出来るかもしれない。頭脳的なピッチングと独特の感性とトレーニング理論で年間200イニング登板を2度達成した平成を代表する大投手、金子。

アメリカでのコーチ留学から帰国後、一体、どんな投手を育ててくれるのか…楽しみでならない金子千尋のネクストステージが始まる。

– 2023年1月 インタビュー風景。トレーニングで来ていた斎藤佑樹さんも顔を出してくださった –
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田中大貴

元フジテレビアナウンサー 独立後スポーツアンカー、フリーアナウンサーとして活動中。番組MC、スポーツ実況、執筆連載などメディア出演の他にスポーツチーム・団体・企業とのビジネスコーディネーション、メディア制作、CSR活動イベントの企画・運営も積極的に取り組む。

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