「最後は故郷で、九州でプレーしたい」
これが嶺井の強い思いだった。プロ入り10年目、31歳。
ベイスターズでは巧みなリードと“嶺井ならではの嗅覚”でインサイドワークを中心に高い評価を受け、ポストシーズンなど特にシーズン終盤にその力を発揮してきた。
選手層の厚いホークスを希望しての敢えての移籍。
日本を代表する捕手、甲斐拓也もいる。ただ、それでもFA権を取得した嶺井の希望は福岡ソフトバンクホークスだった。沖縄は南城市出身。同じ九州エリアのチーム。東浜らをはじめ亜細亜大学出身の選手も多く、同じ九州地方の選手たちがずらっと並ぶチーム。
“故郷に錦を”そんな思いが彼にはあった。
去年11月23日、ホークスへのFA移籍会見。
思い描いてきた願いは成就した。ただ、これで終わりではない。ここからが勝負、本当の挑戦だった。球界随一の戦力を誇るホークスの中でどう生き抜くか、いかに試合に出るか…オフの自主トレからこれまで以上に自らを追い込んだ。
今年も大学野球部の先輩である松田宣浩のもとに弟子入り。「熱男塾」で30代に入った肉体を徹底的に鍛え上げた。
「常に挑戦していきたいと思っています。自分の人生を考えて選んだ道。ホークス移籍は故郷に帰ってこれたという思いです。東浜投手からも素晴らしいチームと聞いています。チームの戦力になる。必ず戦力になるという気持ちです」
このオフに入るにあたり嶺井がこう感慨深くコメントしていたのが印象的だった。
「自主トレメンバーの中ではもう中堅からベテランの域に入るのが嶺井選手ですが若手と同じ量をこなし、自分を追い込み続けていいました。基礎体力の素晴らしさ、基礎的なフィジカルの強さが嶺井選手の魅力です。また自身の身体との向き合い方が非常にうまい選手だと思います。集団練習では補えない部分をATM(レッドコードを使用してのインナーマッスルトレーニング)を中心にアウターとインナーの筋肉のバランスを意識して一年間のトレーニングを考えています。同じベイスターズの宮崎敏郎選手のウエイトトレーニングも参考にしながら、自分の必要な筋肉量を考えてトレーニングを選択していました。今オフの練習量は例年以上でした」
と彼らのトレーニングを指導してきたトータル・ワークアウト下山トレーナーは語る。
春季キャンプ中、ブルペンでも精力的に各投手のボールを精力的に受け続けた。
斎藤和巳投手コーチからは「あれ?嶺井は沖縄出身投手しか受けないんとちゃうの?他のピッチャーも受けるんや笑」と冗談交じりのハッパを掛けられたほどだ。
1か月間、本当に多くの投手のボールを受け、コミュニケーションを図り、来るシーズンに備えた。
甲斐拓也をはじめ、渡邊陸ら若手捕手の台頭もある。ただ彼は必ずチャンスは来ると信じている。ベイスターズの時もそうだった。捕手の戦力補強が行われてもブレなかった。自分のペースを崩さずに時が来たるまで耐え忍んだ。相手打者の特性を見抜き、他の捕手とは違うリードを考え続け、自分の特徴を信じ、ベイスターズをクライマックスシリーズに導いた。
チームが苦しい時、大一番を迎える時、シーズンの佳境…そこで力を発揮してくれる選手。首脳陣からの信頼も厚い。
もしホークスが3年ぶりのリーグ制覇を果たしたとしたら、必ず嶺井の存在があるはずだ。
WBCで世界一に返り咲きた日本球界。そして始まった2023年ペナントレース。あえて九州、ホークスを選択した嶺井の野球人生第二章が幕をあけた。